私有地

シリーズ|加害について

作:中村大地

○人物と場面

1. コンビニ

A
B
Aの友人。

2. 漫画喫茶

C
利用者。
D
アルバイト。
E
アルバイト、Dの先輩。

3. リビング

F
介護を受けている。Gと夫婦
G
Fの介護をしている。

4. 葬儀の帰りに

H
子供がいる。子供はどうやら、留守番しているらしい。
I
Hと同じ家に暮らす。
J
車の持ち主。葬儀場まで車で来た。

5. 転居通知

K
施設職員
L
親族
M
子ども

6. ふたたび、コンビニ

N
タクシー運転手
O
P
Oの友人。

  • 3人の俳優によって演じられることが想定されており、1人の俳優が複数の役を演じる。2019年の上演では下記のように配役したが、組み合わせはこの限りではなく、登場人物の性別も特に指定はない。
  • 様々な場面が描かれるが、基本的には舞台セットはないことを想定している。
  • 一人称については、演じる俳優、演出との話し合いの中で適宜変えても良い。
  • テキスト中に同じ人物の発言が連続することがあるが、これはやや文脈が前段からは変わったり、少し間が空いたりする、と言った意味合いで用いている。

1.  コンビニ

深夜。郊外の、駐車場が店舗敷地の倍はあるコンビニエンスストアの外。店に平行にパーキングブロックが並ぶ。店内に人はほとんどおらず、駐車場には乗用車が2台ほど、それからタクシーが1台停まっていて、運転手が座席を後ろに倒して寝ている。Aが店の外で腰掛けている。Bが店内からコンビニ袋をぶら下げて出てくる。
B
へい(と袋を渡す)、
A
はい、
B
コーヒーて、
A
うん、
コーヒーを手渡しながら
B
寝ない気?
A
え、
B
この時間にコーヒーって、
A
あー、あんまり効かないんだよね、
B
あ、え、コーヒー?
A
うん、
B
効かないんだ、
A
うん、そう、
B
え、
A
うん、
B
え、
B
じゃあ何で飲むの?
A
え?
A
飲みたいから?
B
あー
B
わたしあんまり、それわからない派だわ、
A
え?
B
コーヒーをそういう素材として以外に使用すること、
A
素材って、
B
こう、目を覚ます素材、
A
へー、
A
あんま好きじゃないってこと?
B
まあ、
B
そんな、嫌いってわけじゃないけど、
B
あえて選ばない、
A
ああ、
B
こう、数ある飲み物の中で、
お互い飲み物を飲む間。Bは、紙パックのジュースにストローを刺し、飲む。ややあって、袋の中からクッキーを取り出す。
B
あとこれ、
A
お、
B
クッキー、
A
あ、へー
A
あ、懐かしい、
B
ね、
A
なんか食べてた気がする
B
私は今も結構食べる、
A
今クッキーとかあんま、
B
食べない?
A
コンビニとかで選ばないかもなー、
B
まあ、それはそうかも、
A
食べていいの?
B
どうぞどうぞ、(と、袋から直接とらせる)
A
(手を入れて、一枚取る)ありがとう、
やや間。
A
これは、クッキー?
B
え、
B
クッキー、
A
ビスケット?
B
ビスケット…(包装を見ている)クッキー、
A
あー、
A
違いってなんだ?
B
クッキーとビスケットの?
A
クッキーとビスケットの、
B
んー、
B
しっとり感、
A
しっとり感、
B
クッキーのほうが湿ってね?
A
(食べて)湿ってるかも、
間。目線の先には国道があり、その向こうに大きな墓地がある。
B
マジ真っ暗だね、
A
霊園って街灯ないのよね、
B
なんでだろ、
A
夜に行くところじゃないからじゃない?
A
17時半までとかだよ、ここは、
B
あー、
B
お墓参りする人がね、
A
え?
B
え?
B
お墓参りする人が入れるのが、ってことでしょ、
A
ああ、そうそう、
A
え、どゆこと?
B
なにが?
A
お墓参りする人以外いる?
B
霊園?
やや間。
B
こうさ、お墓は死んだ人の家だとしてね、
A
うん、
B
その家の人たちは暗いほうが良いのかね、
A
死んだ人が、
B
そう、
A
あー、
A
どうだろうねえ
B
暗いほうがよく見える目を持ってるとか、
A
うーん、
B
そういうの、考えたりしない?
A
えー、
A
ないなあ、
B
ないかあ、
間。
A
昔さ、
B
うん、
A
ちょっとした病にかかってて、
B
やまい、
A
病っていうか、あれあのそんな重たいあれじゃないんだけど、
B
うん、
A
人からこうやってもらうお菓子とか食べられないっていう病にかかってて、
B
え?
A
こういうむき出しのもそうだし、袋菓子のとかもそうなんだけど、
B
え、袋もだめなの、
A
なんか飴とか、袋に入ったやつのとか、
B
へー、
A
全体的にだめ、
B
えー、なに、潔癖症的な?
B
食べるのシェアするのとかだめなやつだ、
A
や、
B
中華とかだめなやつでしょ、
A
や、
A
や、ご飯とかはいけるの、
B
え、いけるの?
B
こう、分け合う系はいけるんだ、
A
うん
B
へー
B
ポテチとかは?
A
も、駄目だった、
B
へー、
A
なんかこれはね、わかんないけど、今考えてるんだけどね、
B
うん、
A
今考え考え話しているから、常日頃そう思っているとかそういうわけではないんだけど、(B うん、)うん、なんかね、個包装のとかって大概なんか、わかんないけど個包装のお菓子とかをこう渡されるときって、それが元々どこにあったのかなっていうことを考えるとさ、例えばちっちゃいジッパーにたくさん飴とかお菓子入れてる人いるじゃん、ガムとかでもいいんだけど、なんかそれがすごい長いことカバンとかの中で放置されてたことを想像してしまって、それがジッパーに入れられ、そしていまここに手渡されるところまでの間に、こう、目の前の人の手を介して、皮脂とか垢とかついてたのかなとか、実際にはそんなことはないと思うんだけどさ、そういうのを想像して、なんか嫌だなと思ってしまう、
B
あー、
A
わかる?
B
うーん、わかんないけど、
A
基準が?
B
基準というか、そもそもの感覚があんまり、
A
ありゃ、
B
残念ながら、
A
そっか、
B
なんかでも、
B
ポケットに入ってるみたいなこと?
A
え、
B
うーん、なんていうの?
B
こう、人のぬくもり的なものが嫌だってこと?
A
あー、
B
人のぬくもり的な何かがこう、商品にまとわれているのが嫌だってこと?
A
あーどうでしょう、
A
(手を握ったりしながら)ぬくもり、
B
ぬくもり、
A
あー、
A
ちょっと違うような気もする、
B
うん、
A
でも、そんなに違わない気もする、
B
うん、
間。2人のいる位置からは、 タクシーの運転座席を倒して寝ているタクシードライバーが見えている。年配。
B
休憩中、
A
まあ、そうじゃない?
B
この時間にあの体勢になったら、朝まで動けなさそう、
A
そう?
A
目、覚めそうだけど、
A
寝心地悪そう
B
悪いなりに、目が覚めたりまたまどろんだりしながら、
B
結局朝まで、
A
そうかなあ、
A
その前になんか言われたりしないのかな?
B
あ、店の人に?
A
そうそう、
B
どうでしょう、
B
言わなそうだけど、(A あー、)
B
だって、全然迷惑じゃなくない?
A
まあね、
A
なんか買ったのかな、
B
買ってんじゃない、
A
こう、停めて、直で寝たりとかしたりとか、
B
一応店に気ぃつかってちょっと買ってからしない、そういうこと?
A
免許持ってないのよね、
B
あ、
B
じゃだめだ、
A
うん、
B
ちょっとなんか買ってからするよ、寝たりとか、
A
そーなんだ、
B
一応なんか買って、(A うん)で、買ってるウチにまあまあ目が覚めたりすることもある、
A
寝に来たのに、
B
そうそう、
A
どうするの?
B
そういうとき?
A
うん、
B
でもなんか、もちろん時と場合によるけど、もう一度眠気が来ることのほうが多い、
A
へー、
B
まあ、(あの人がどうだかは)わかんないけど、
やや間。
A
タクシーってなんかノルマとかあんの?
B
知らないよ、
B
タクシードライバーじゃないから、
A
そうね、(笑)
B
でも歩合っぽいよね、
B
走った分だけ、みたいな、
A
そうよね、
A
今はじゃあお金にはなってないと、
B
そうでしょうね、
A
ノルマとかあんのかね、
B
どうだろうね、
やや間。
A
ホントはダメそう、
B
ノルマが?
A
いやいや、寝てちゃ、
B
まあ、
B
だめでしょうね、
A
ね、
B
でも、寝てていいと思うよ、
A
まあ、
B
人はこの時間寝るもんだから、
A
人は、
B
うん、
B
眠いもんね、
A
まあね、
B
極論だけど、コンビニとかでさ、
A
うん、
B
バックヤードで寝ててもいいと思うんだよね、
A
うん、
B
バックヤードで寝てて、お客さんに気づかなくてもいいと思う、
A
呼んでも出てこないの?
B
うーん、まあ出てきたほうがいいけど、
B
最悪出てこなくてもいいと思う、
A
そうか?
B
うん、
B
ま、出てきたほうがいいけど、
B
使ってる側としては、
A
お金もらってるしね、
A
お金もらってんだから、出てきたほうが良いでしょ、
B
うーん、
B
まあね、
A
仕事ですから、
B
うん、
A
そもそもそれくらいなら、この時間までやらなくていいと思う、
B
寝るくらいなら、
A
家で寝たらいいじゃん、
B
うーん、
B
まあね、
B
この時間に、ここに居座ってるウチらが言うことじゃないでしょ、
A
そりゃそうか、 
やや間。

2. 漫画喫茶

漫画喫茶のバックヤードで、D,Eが休憩している。時刻は夕刻、客はまばら。バックパックを背負ったCが入店してくる。カウンターに店員はいない。
C
すみませんー、
C
すみませーん、(呼び鈴をならす)
やや間。
C
(呼び鈴を鳴らす)
D
(バックヤードから出てくる)はいー、
D
いらっしゃいませー、
C
あ、すみません、ええと、
D
禁煙ですか、喫煙ですか、
C
あ、えーと喫煙って、
D
喫煙だと只今の時間このマッサージチェアのタイプかあとはダブルの部屋のやつかですね、
C
あー、
C
フラットのタイプって、
D
フラットのタイプですと、只今の時間禁煙のみになります、
C
ああ、じゃあ禁煙で、
D
かしこまりました、
D
お客様当店の会員カードはお持ちですか?
C
ああ、はい、
D
ご提示ありがとうございます、(手渡されたカードを受け取り、読み取り、画面に一瞥をくれ)カードのお戻しです、
D
お時間は、
C
12時間で、
D
12時間、(時計をちらっと見て)かしこまりました、ありがとうございます、
D
それでは禁煙、フルフラットタイプのお部屋、12時間パックでお取りいたします。当店代金先払いのシステムとなっております、1980円になります、
C
(2000円を出す)
D
2000円のお預かりで、
C
すみません、30円あります、
D
あ、かしこまりました、
C、小銭を取り出してわたす。
C
すみません、
D
50円のお返しです、
D
当店、延長の際ご案内は行っておりませんのでご了承ください、当フロア奥203番のお部屋お入りください、
C
はい、ありがとうございます、
D
ブランケット・ドリンクバーなど、つきあたりにございますのでご利用ください、
C
はい、
C
(一度行きかけて)あの、
D
はい、
C
あの、携帯の充電器借りてもいいですか?
D
はい、お客様(の機種は)
C
あ、iPhoneです、
D
かしこまりました、
D、バックヤードに一度戻り充電器をとってくる。
D
こちら、どうぞ、
C
ありがとうございます、
D
お帰りの際に、お持ちくださいませ
C
ありがとうございます、
D
ごゆっくりおくつろぎください、
Cはドリンクバーから飲み物をとり、ブランケットを手にし、漫画喫茶のその割り当てられた空間を自分の空間とするようにふるまう。Dはバックヤードに戻る。このバックヤードも、Cの個室も、同一の舞台空間にあることを想定して以下は書かれている。長い間。
D
この時間に12時間って、
E
え?
D
この時間に12時間って、
E
うん、
D
12時間後って、朝4時とかですけど、
E
うん、
D
朝4時にチェックアウトってこの後どうするんですかね、
やや間。
E
さあ、どーでしょね、
D
わかんないすけど、謎なタイミングではありますよね、
やや間、Cがドリンクバーに飲み物を取りに行く、戻ってきて、寝転がる、
E
こういうとこいるとさ、普段会わない人種と会うよね、
D
人種、
E
人種っていうか、まあ人種か、朝4時になにするかわかんないけどチェックアウトするやつとか、そういう変なの、
D
変か、
E
変っていうか、仕事なにしてんのって感じじゃない、
D
ああ
E
仕事何してんだろって、見た目だったし、
D
そうすね、
E
なんだろうね、
やや間。
D
なんかそういうのって、今もよく考えます?
E
そういうのって?
D
なんかその、お客さんみて、この人の仕事なにしてるんだろーとか、
E
うんまあ、あんまりしないけど、
E
時々はある、
D
今みたいに、
E
うん、
E
ほぼ暇つぶしですが、
D
まあ、
やや間、
D
やなんか、仕事何してんのかなとか、この人どういう人なんだろうとか、(E うん)確かに暇つぶし程度に考えることはあると思うんですけど、いやでも今はもう完全にそういうことはなくて、個人的にはもう完全に見た目だけで判断してて、
E
見た目、
D
格好が汚いかどうかとか、(E うん)そういうところからなんか、や、他にもあるかもだけど、結構きれいに使わない人って見た目でわかったりするじゃないすか、や、わかんないけど、そういう基準というか、そういうラインで見てます人を、
E
あー、それはなんかわかる、
D
わかります?なんか顔とかそういうレベルではなくて、どの顔がどうとか、もちろん常連ならあれですけど、覚えてますけど、顔というか、存在のレベルでこの人は個室を汚くしそうだとか、そうじゃないかもしれないとか、あとの掃除めんどくさそうとか、そういう基準で見てしまうという、
E
うん、
D
わかります?
E
いや、
D
はい、
E
なんか、わからなくはないけどそこまでは考えてないかもなー、
D
あ、そうすか、
E
うん、
間。Dが立ち上がって、
D
なんかいります?
E
あー、
D
飲み物、
E
いや、いいや、
D
はい、
Dは、ドリンクバーに飲み物を取りに行く、Cはくつろいでいる。D、戻ってきて座る。間。
E
ここのさ、
D
はい、
E
ここWi-Fi最近調子悪くない、
D
え、店のですか?
E
うん、
D
そうすか、
D
使ったことないすけど、
E
え、
E
なんで、
D
え、
E
使えばいいじゃん、
D
やだって、わかんないすけど、
E
めっちゃ遅いのよ、
D
じゃ使わない方がいいじゃないすか、  
E
いや、最近なのよ、
D
そうなんすか、
D
Wi-Fiって、なんかその調子いいとか悪いとかって、なんであるんすかね、
E
え、なんか量とかじゃない、
D
量?
E
すげえたくさん使ったらみんなで一気にとか、そしたら遅くなるんじゃない、
D
ああ、量、
E
動画のダウンロードしてんのかな、とか、
D
ああ、
E
めっちゃゲームとかしてんのか、とか、それこそ、12時間とか言って、普通はもっと遅い時間だけど使ってるやつが動画とかダウンロードしたりしてさ、そのせいで回線が遅くなったりしてんじゃないかな、
D
へえ、
E
言われてみれば、それは顔でわかるかもしれない、
D
……回線つまらせ顔、
E
や、つまらせてるっていうか、(考えて)つまらせてるっていう、
E
顔、
D
つまらせ顔、
E
そうね、つまらせ顔、
E
は、あるかもしれない、
E
っていうのをさっき思い出していた、
D
ああ、顔で判断できる、
E
そうそう、
E
わかる?
D
や、わかんないす、
E
あ、あんまネットとか、使わない人?
D
え、そんなことないすけど、
E
そっか、
やや間、D立ち上がって、
D
飲み物とってきます、
E
え、
D
はい、
E
すげえ飲むじゃん、
D
え?
E
すげえ飲むね、
D
コーラとかって、
E
うん、
D
飲んだ瞬間以外喉乾きますよね、
E
ああ、
D
なんでウチのドリンクバーって、お茶ないんですかね、
E
あれ、ないっけ、
D
なんかミルクティーとか、レモンティとか、ありますけど
D
でもあのドリンクバーの、ホットのあれって、ほとんどまじで紅茶感ないですよね、
E
そうね、
D
ほぼ砂糖というか、なんならより喉乾きますよね、
D
でもその意味では水があるんですけど、水は水で、すごい、ドリンクバーが目の前にあるのに、水を選択することに対してすごい抵抗感があるんですよね、
E
そう、
D
そんな気がしません?
E
うーん、
E
別に、
D
そうすか、
E
うん、 
E
取ってきたら?
D
はい、
D、飲み物を取りに行く。

3. リビング

Fはリビングで寝ている。2人は結婚していてFはGに介護を受けている。朝方。Gが洗い物をすませて、キッチンから出てくる。Fは寝転がってテレビを見ている。
G
おい、
G
おい、(手荒に)
F
…ん?
G
起きて、
F
は?
G
こんなとこで寝てないで、
F
…いや、
G
具合悪いの、
G
具合悪いなら布団行ったら?
F
いや、そんなことないけど、
G
じゃ起きたら、
F
いいでしょ、別に、
やや間、Fはまだ寝転ったまま、Gは出かける支度をしている。
F
朝ごはん食べた?
G
え、
F
朝ごはん、
G
もう食べたでしょ、
F
そうか、
G
食べたよ、
G
さっき食べたじゃん、
F
食べてないよ、
G
え、
F
わたしは食べてない、
G
食べたって、
F
そう、
やや間。
G
今日これからもう私でかけちゃうけど、
F
あ、そうなんだ
G
うん、
G
この後、宮本さんくるから、
F
え、
F
誰、
G
宮本さんって、ヘルパーさん
F
ヘルパーさん、
F
誰に?
G
あなたに、
F
わたし?
G
うん、
F
いらないよ、そんなの、
G
いやいや、毎週来てるでしょ、
F
知らない、
G
先週も来たよ、
F
そうだっけ?
G
そうだったでしょ、
間。
F
あのね、
G
うん、
F
そういうの大丈夫なんだよ、本当は、
G
そーなんだ、
G
なにが?
F
そういう、いま言ったでしょ
F
なんかわかんないけどさ、
G
そう?
F
勝手にきめないでほしい、
G
勝手にって、
G
勝手にって、あなたもいるところで話したよ、
F
そうなんだ、
F
それ、全然知らなかった、
やや間。
G
あと1時間くらいでくるから、
F
そうかあ、
F
困ったね、
G
何が困ったの、
F
でかけなきゃいけないから、
G
でかなきゃって、
G
どこに?
F
どこって、
F
むこうよ、
G
むこうってなによ、
G
だめだよ、
F
なんで、
G
もうすぐ宮本さん来るんだからさ、待っててよ、
F
なに、宮本さんって、
G
だから、ヘルパーさんだって、
F
ヘルパーさん、
G
だから、この後来るの、ヘルパーさんが、
F
誰に、
G
あなたに、
F
わたし?
G
そう、もうすぐ来るのよ、
やや間。
G
もう出るね、
F
なんで?
G
仕事だから、行かないと、
F
ずるくない?
G
は?
G
ずるいってなに?
F
なんでわたしは出かけられないの?
G
出かけられないなんて言ってないでしょ、
F
いまだめって言ったでしょ、
G
だめって言ってないでしょ、
F
わたしだって行かなきゃいけないんですけど、
G
どこに、
F
どこにって、
F
向こうにだよ、
G
向こうってなんだよ、
F
ちゃんと考えてんだから、
G
なにって、働いてないでしょ、
F
違うよ、ちゃんと考えてんだよ、
G
考えてるってなに、
F
これからの予定とかちゃんと決めてたのがあるんだよ、
G
決めてたって、宮本さん来るのも決まってたんだよ、
F
知らないよ、
G
じゃちゃんと断ろう、
F
何が、
G
電話して宮本さん来るの断って、来ちゃうから、
F
なに、宮本さんって
G
だから、ヘルパーさんだって、
F
なにヘルパーさんって
G
だからヘルパーさんだって、
G
あなたにヘルパーさんが来るのよ、
F
知らないよ、
やや間。
G
でかけてていなかったら迷惑でしょ、
F
知らないよ、
G
電話しないなら待っててよ、
F
よくわかんない、
G
(わたし)もう行かないと行けないんだけど、
F
ずるいよ、
G
ずるくないでしょ、
F
こっちだっていろいろ考えてるんだよ、
G
考えてるなら待っててよ、
F
なんで?
G
なんでって、子供かよ、
F
は?
G
宮本さん、来るんだから、
F
宮本さんって誰、
G
だから、ヘルパーさん、
F
ヘルパーさん、
G
あなたに、ヘルパーさんが来るのよ、
F
いらないよ、
G
いらないって、だって、もう来るんだから、
G
約束してるんだから、
F
私だって予定があるんだよ、
G
宮本さんが来るのも予定だよ、
やや間。
F
知らないよそんな、勝手にさ、
G
勝手じゃないんだって、
間。
G
勝手じゃないんだよ、
F
じゃあなんだよ、
G
決まってたんだよ、
わずかに間。
F
知らない間に、いろいろそんなさ、
F
わかんないけどさ、そういう風に決められるとむかつくよ、
G
だから、一緒にいるときに決めたんだって、
F
覚えてないや、
やや間。

4. 葬儀の帰りに

地方都市。知人の葬儀が郊外の葬儀場でおこなわれていた。そこに出席していたH,Iは車を待っている。喪服。少し酔っている。Jが車に乗ってくる。Jは喪服から着替えている。車を停めて、
J
ちょっと待ってくださいね、散らかってて、あれなんですけど、
H
いや、ありがとうございます。
J
あ、乗ってもらって、どちらか後ろで、
H
ああ、じゃあ、
H,後部座席に乗り込む。
J
で、あの、ちょっと助手席の荷物を後ろで受け取ってもらって、
H
あ、はい、
J
いいですか?
H
はい、
J
すみません、着替えというかそのスーツの上で、
H
これ?
J
あ、はい、そうです
H
あ、はい、
J
そこで大丈夫なんで、
H
はい、
J
ありがとうございます、
H
あ、はい、
J
(Iに、助手席をしめし)どうぞ、
I
ありがとうございます、
J
じゃ、いきまーす、
H
すみません、お願いします、
車は走り出す。
J
ここ駅から遠いですよね、
I
そうですね、
J
来たときはどうやって来たんですか?
I
駅からタクシーで、
J
あ、そうですか、
J
そこの電車、よく止まるんですよ、
H
そうみたいですね、
J
本数少ないですし、
I
なんか今も止まってるみたいで、
J
そうですか、
I
調べたら、まだ、
J
あの、良いところまで送りますよ、
I
すみません、
J
どこなんですか、
I
あ、
H
あの、飛行機なんですよ、
J
え?
H
飛行機で来てて、
J
え、空港?
I
いや、今日は一泊で、
J
ああ、そうか、じゃ、ホテル、
H
そうですね、
やや間。
J
え、じゃあどこまで、
H
どこだっけ?
I
ええと、なんか、(携帯を取り出す)
H
(それをみて)さっきも言ってたじゃん(笑)
I
忘れちゃった、
H
わたしも覚えてないけど、
I
(Jに)すみません、 
J
ああ、いや、
I
グリーンハイムって名前です、
J
あ、駅の真裏のところだ、
I
そうですそうです、
J
じゃあ、もうホテルの近くまで行きますよ、
I
え?
J
通り道だし、いいですよ、
I
ありがとうございます、
J
ちょっと多分、15分くらいですけど
H
お願いします、
やや間。
H
最後はこのあたりに住んでたんですか?
J
ああ、戸村くんですか、
H
そうそう、
J
そうみたいですね、
H
(Iに)こーすけくんって、生まれこっちじゃなかったよね、
I
たしか、
H
ね、
J
結婚してこっちに来たみたいで、
I
そうだったんですね、
間。
H
こーすけくんとは、あれなんですか、
H
どんなあれですか、
J
ああ、会社の後輩なんですけど、
H
ああ、
J
1年前くらいにやめてたんですけど、別に連絡とってたわけじゃないけど、そこそこ仲良かったな、みたいなのもあって、
J
ちょうどFacebookで見つけて、それで、
H
ああ、
J
お二人は、
I
高校の同級生なんです、
J
ああ、そうでしたか、
間。
I
まだ、若かったのに、
J
そうですね、
H
子供もちっちゃかったね、
I
あの一番前に座ってた子たちってやっぱりお子さんかな、
J
ですね、
I
そうか、
J
です、
I
残された方(ほう)も大変だ、
J
どっちも小学生、だったかな、
H
そうなんだ、じゃあうちと一緒だ、
I
まあ、だいたいね、
J
あれ、ご結婚されてるんですか、
I
いや、
J
あ、でもお子さんが、
I
そうですね、
H
一緒に暮らしてて、
J
なんかすみません、
I
あ、いやいや、
H
すみませんとかじゃないですよ、
H
だいたいそんなもんですから、
J
いや、すみません、
J
子供の年が同じくらいですか、
I
はい、
J
じゃ、今日は、
I
まあ、預けて、
J
そうですか、
J
親御さんとか、
I
そんな感じですね、
H
葬式なんて行ってもね、
J
そうですよね、
J
親族ってわけじゃないですし、
間。H、ポケットから缶ビールを取り出して開ける。
I
ちょっと、
J
まじすか、
H
すみません、ちょっと喉乾いて、
J
取ってきたんですか、
H
取ってきたっていうか、まあ、取ってきたというかんじですね、結果的には、
J
はあ、
H
すげえいっぱいあったじゃないですか、
I
(Jに)すみません、
J
いや、いいんですけど、別に、
やや間。
J
なんで、通夜って寿司なんですかね、
I
あれ、だいたい寿司ですか、
I
そんなに経験ないんですけど、
J
や、だいたい寿司ですよね、
H
そうすね、
J
日常で寿司って、ていうか桶に入ったああいうのって、ほんとに葬式でしか食べなくないですか?
H
え?
H
意外と結構ありますけどね、
J
あ、へー、
H
家で頼んだりとかしますよ、
J
あ、そうなんだ、
J
そういうの、したことないです、
J
家の前に、置いておいたりとか、食べた後に、
H
そうそう、
J
へー、
H
なんかちっちゃい頃はそういう日はめっちゃ楽しみでしたけどね、
J
あ、へー、
H
なんか家のキッチンの、トングとかフライ返しとかそういうのあるフックとか出かけるところがあるんですけど、あったんですけど、(J はい、)それの下に近くのとんかつ屋と、そば屋と中華屋と、寿司とみたいな感じで、出前のメニュー表が下がってて、
J
へー、
H
両親共働きだったんで、忙しいと、そこから頼んで良いよ、って時がたまにあって、
J
そうすか、
H
兄妹で、って、上にいるんですけど、兄が、一緒に2人で食べたりとかしてました、
H
寿司桶とかはほんとなんか、ボーナスみたいな感じで、(J ボーナス)で、ありましたけどね、
J
へー
やや間。
J
戸村くんとは、仲良かったんですか、
I
ああ、
J
仲良かったていうか、なんか、あれですけど、
I
そうですね、まあまあ、
J
あー、
間。車は駅に近づいてきている。
I
そろそろですよね、
J
はい、
J
なんかありますよね、街の境目が
I
そうですね、わかりますね、
I
こっちきたの初めてですけど、
J
ですか、
H
でもどこもこんなもんじゃない、
J
まあ確かに、
H
駅前だけ、街の真ん中みたいなところ外れるとめちゃくちゃ静かでって、だいたいどこもそんな感じじゃない、
J
そうですね、このあたりお寺とか多くて、
J
駅近いのに家賃も安くて、
I
へえ、
J
昔住んでて、このあたり、
H
(あまり聞いてない)へえー、
やや間。
I
(Hに、)すごい酔ってるでしょ、(笑)
H
え?
I
酔ってない?
H
いや、全然だいじょうぶ、
やや間。
H
この人、すげえ酒強いんですよ、
J
あ、そうなんだ、
H
全然かわらないの、
J
へえ、
H
今だってめっちゃ飲んでたじゃんね、
I
いや、飲んでないよ、
H
今っていうか、今日か、
I
いやいや、
H
(以下、ちょっとウケながら話す)すげえ、だって引くくらい飲んでたでしょ、(Jに)飲んでたんですよ、
J
へえ、
H
(Iに)まわりの人引いてたよ、ほんとに、
やや間。
H
言おうと思ってたけど、ひとりで日本酒とか飲んでてあれほんと、日本酒飲んでたの1人とかだったじゃん、他の人誰も飲んでなかったじゃん、いや、飲んでないわけじゃないけどさ、ビールとか飲んでたくらいだったじゃん、あんな量さ、飲まないよ普通は、あれ、やめたほうが良いよ、
I
わたしそんな飲んでないよ?
H
いや、飲んでたって、この人そういうところあるんですよ、ホント、日本酒飲んで寿司もう桶から直で食ったりしてんじゃん、ああいうところでって、葬式でって、他の人にもそりゃいたけど(食べてる人)、大きい声で喋ったりとか(もいたけど)、そういうことじゃないでしょ、
H
人の死んだ場所でそんなことすんの、あんまよくないよ(笑)
H
なんか貧乏くさいし、
I
うん、
I
(憮然として)すみません、
H
いや、別にあやまんなくていいけど、
H
そういうことのために言ってるんじゃないんだけど、
長い間。
J
着きました、
やや間。

5. 転居通知

子供部屋。M(子ども)とL(親族)に会いに来たKが話している。
K
どうも、
Mは答えない。
K
こんにちは、
Mは答えない。
K
大丈夫ですか?
K
はじめまして、かおるさん、
L
(Mに)はじめましてって、
やや間。
K
はじめまして、よろしくおねがいします、大木(おおき)といいます、かおるさんに会いに来ました、
ポケットからお菓子を取り出す。
K
食べる?
Mは受け取るが、口はつけない。同じものをKは口に含む。やや間。
K
これからのことはもう聞いてる?
Kはパンフレットを取り出す。
K
これからかおるさんはここを出て新しい場所で暮らすことになります、
K
まだ今日ってわけじゃないんだけど、近いうちにここを出て、別の場所、施設に移ってもらうことになったんです、
K
また別の場所に行きます、親御さんはいないけど、
K
まあ、いないほうがいいか(笑)
K
今日はまず挨拶に来ました、これからの移住までの流れを簡単に説明しますね、近いうちにまず私たちの施設に来てください、その時はもちろん(Lと)ご一緒にと思いますけど、難しかったら私達が迎えに来ますから、ここからだと車で30分くらいかな、車で行く距離なんですが、(この家の)目の前の45号を南にまっすぐ行ってもらうと実はつくんですね(笑)(Lに)もちろんそういう運転はおまかせしますが、
K
来てもらったら施設全体を見学してもらって、気になることもできる限り答えるし、一緒にこれから生活していく方々もいるので、例えば体験入居のようなことをしてもらって、徐々に慣らしながらで、気に入ってもらえたら、引っ越すという流れになればなと。もちろんすぐじゃなくて、ゆっくり考えてもらって良いんだけれど、まずは見学に来てもらえたら嬉しいです、
K
新しくてきれいなところです、緑も豊かで、お風呂も食堂もとても広くて、レクリエーションルームがあって、そこでみんなで遊んだりとか、良くしています、時々近くの学生ボランティアの人たちが遊びに来たりすると、園内は大賑わいで、
K
部屋は個室のタイプもあります、この家よりは多分同じか少し狭いくらいかな、と思うけど、
K
かおるさんがより生きやすく、過ごしやすくするために必要な対応なんです、急に決まったみたいでそれは申し訳ないんだけど、(Lを示して)サホさんからも相談されてましたし、まず、とにかく見てもらって、来てもらってからかな、ってコチラとしては考えています。
間。
K
今日は挨拶だけだから、本当に、
K
また来ますね、
Kが去る。しばらく間。
M
腹減った、
L
(Mに)そうね、
M、クッキーを手に取り食べる。
L
なんか買ってこようか、
M
いや、
L
いらない?
L
そうか、
L
いらないか、
Lが立ち上がって、タバコを吸いに外に出る。長い間。空間にものが散乱している。

6. ふたたび、コンビニ

深夜。東京郊外の、駐車場が店舗敷地の倍はあるコンビニエンスストア。店内に人はほとんどいない、駐車場には乗用車が2台ほど、それからタクシーが1台停まっていて、運転手(N)が座席を後ろに倒して寝ている。その車内。外にある喫煙所で、O、Pが話している声が聞こえてくる。
O
休憩中?
P
かね、
O
結構長いよね、もう、身体バキバキになりそうだね、
P
そうね、
やや間、
P
ああいう人って、買い物してんの、
O
してるでしょ、
P
流石になんか買ったりするか、
O
なんか買って、そんで寝る、
P
追い出されたりしないのかね、
O
いいんじゃない、この時間なら
P
(店の人も)かまってる暇ないか、
O
かまうっていうか、
O
まあ、そうね、
やや間、
P
寒い、
O
寒いね、
やや間、
O
寝てんのかな、
P
さあ、
O
エンジンかけっぱで、
P
うん、
O
バッテリー上がったりしないかね、
P
わかんないけど、
O
長いこといるね、
P
ずっとあんな感じね、来たときからいるから、
O
どんくらいいるいま?
P
20分くらい?
O
もうそんないる?
P
あ、買い物した時間もいれてね、
O
ああそっか、
P
その間はずっとああなってたってことだよね、
O
バッテリー上がったりしないのかね、
P
エンジンかけっぱで?
O
そうそう、
P
え、
O
大丈夫なのかねって、思って、
P
なに、はじめて?
O
なにが?
P
いるでしょ、あんなタクシーの運転手
O
え、
P
いるでしょ、
O
なにはじめてって?
P
タクシーの運転手コンビニで車停めて寝るのそんな珍しくないでしょ、トラックとかもいるけど、
O
うん、そうね、
P
なんの心配よ?
O
え、ない?むしろそういう心配、
P
タクシーの運転手の車のバッテリーが?
O
うんまあ、それに限らず、
P
ないよ、
O
ないか、
やや間。
P
あれか、
P
生き別れた恋人と似ているとかか、
O
なにそれ、
O
いねえよそんなの、
P
そういう運命の再会的なあれか、
P
(Oの様子を見て)違うか、
P
違うな、
O
違うよ(笑)
やや間。
O
恋人がいませんが、
P
生き別れる以前に、
O
ええ、
P
長らくいませんが、
O
いるじゃん、
P
いや、自分が、
O
わたし?
O
そうねえ、
やや間、
P
もうこうやって、タバコを吸える場所っていうのもなかなかないよね、
O
ないねえ、
P
貴重な、コンビニ
O
街中はもう本当ないね、
P
ないない、
O
灰皿を抱きしめてやろうかと思うよね、
P
え?
O
街中でさ、灰皿見つけたら、見つけた灰皿を抱きしめてやろうかと思わない?
P
なにそれ、
O
もうそれくらいの気持ちだよ、
P
(笑)
やや間。
P
寒い、
O
寒いよ、
やや間、運転手が起き上がる。
O
あ、起きた、
P
ほんとだ、
O
シート立てた、
P
うん、
O
移動するのかな、
P
この時間に?
O
もう誰も乗る人とか、いなそうだけどね、
P
駅前とか行けばいるんじゃない、
O
こっから結構あるよね、
P
や、車だからね、
P
どんくらいだろう、
O
結構あるでしょ、
P
……そうかも、
O
あ、伸びした、
P
なに、その実況(笑)
やや間、タクシーは走り去る。
P
あ、行った、
O
どこ行くんだろね、
P
どうでしょうね、
O
どこ行った?
P
もう、わかんないよ、
タバコの火を消して、道路まで出る。
P
わかんない、
O
左に行ったよね、
P
駅、反対だよね、
O
そうね、
P
なんかあんのかな、
O
なんかあるんじゃない?
やや間。
P
生き別れた恋人に会いに、
O
なにそれ、わたし?
P
違うでしょ、
O
違うけど、
やや間。
O
行ってしまったね、
P
行ってしまった、
間。
P
寒いね、
O
寒いよ、
P
帰りますか、
O
帰りましょう、
O,P去る。

※この戯曲を上演したい方は屋根裏ハイツまでご連絡ください。